第17回国土交通技術行政の基本政策懇談会 議事要旨

第17回国土交通技術行政の基本政策懇談会 議事要旨

1.日時
  令和2年12月24日(木) 10:00~12:00
 
2.場所
  国土交通省2号館共用会議室3A3B


3.出席者(五十音順、敬称略)
  委員:石田東生、伊藤香織、鵜澤潔、春日伸予、金山洋一、小池俊雄、高木健、谷口綾子、谷口守、中川聡子、福和伸夫、藤田壮、藤野陽三、堀宗朗、松尾亜紀子、屋井鉄雄、山田正
  ゲストスピーカー:藤井聡

4.議事
1.今回のテーマについての議論
<テーマ>
「カーボンニュートラル、地球温暖化対策、グリーンイノベーション、コロナ」
2.その他
   今後のスケジュールについて
 

 
5.議事概要
・「自立分散強調型国土」、「コロナをどうするか」、「脱炭素をどうするか」を防災も含めて考えたときに、どのように進めることで国の成長を描けるかが必要ではないか。「マクロな密度」と「ミクロな密度」を間違えず、コンパクト化を進めることが住環境・活動環境にもよく、脱炭素にもつながることはわかるが、どのように日本の成長につながり、どのように防災等との連携ができるか全体像がまだ描けていないのではないか。
・それぞれの分野が連携していかなければ達成できないと考えているが、連携はどのようにしたら実現できるか。
 
・経済成長との関連に関して、今日話した内容をやらずして日本が成長することはないというくらいに今回の内容は必要不可欠なものである。
・南海トラフ地震、首都直下地震、東京湾・大阪湾の巨大高潮が起きたときの経済被害はフロー効果、GDPの観点から見ると100兆円から1,420兆円ということが土木学会の試算でわかっている。国土強靱化を行わなければ、日本が成長していく中で、ある災害が起きたときに一気に下がってしまう。災害のリスクも折り込んだ上での成長率という概念を考えた場合、長期的成長率は国土強靱化のレベルに依存している。マイナスをゼロにすることは被害が極めて大きいため、長期的なリスクを折り込んだ成長率の向上にとって国土強靱化は極めて重要である。
・前向きに成長するときにマクロ経済モデルで考えると、国土強靱化にとって2点の効果・成長を促すことができる。ひとつ目はフロー効果とストック効果という概念において、ストック効果の概念は一般的な計量経済学モデルではそれぞれの地域のアクセシビリティーがそれぞれの地域並びにマクロ経済全体の成長率に寄与することが計量経済学的に明らかに実証的にされている。従って、高速道路、新幹線、都市内交通を造る場合にそれぞれの行きやすさ・交流を生んで成長していくことが実証経済学的に明らかになっている。それぞれの地域の都市局的な投資、魅力が高まっていくことで需要を喚起する効果があり、成長に繋がる。
・昔は年間15兆円程度の国費を使ってインフラ投資が進められていたが、フロー効果の視点からデフレギャップを埋める、需要創出・内需拡大の観点からデフレ脱却を通して、年々成長していく効果をもたらす。投資を行うことがアベノミクスの成功にとって、有効であるだけでなく必要不可欠である。マイナスをゼロにする国土強靱化の視点、アクセシビリティー(魅力)を上げる点、フロー効果(内需拡大)の3点から、投資を国土強靱化、防災、コロナ対策、グリーンニューディールをやると、抜本的に経済が成長し、このようなことをやらない限り成長はあり得ない。
 
・連携をどのように実現していくかについては、1点目はデジタルトランスフォーメーション(DX)である。DXによりデータを共有することで、いろいろなところの繋がりが出てくるため、DXは非常に重要である。
・グリーンイノベーション戦略推進会議では、7府省が関わっており、メインの省があるがお互いに関連しているため、事務ベースで様々なディスカッションをしている。ここに期待しすぎるのは良くないがどう加速していくかが重要である。最近嬉しかったのは、道路局が道路の長期ビジョンを作り、道路局の若手の職員が府省を超えて実現を目指して勉強会を始めたことである。この動きをどう加速する環境を整えるかが重要である。パブリックアクセプタンスや行動変容など、モビリティマネジメントによるコミュニケーション技術などが蓄積されているため、強いところをどう活用していくか。また、活用すればかなり頑張れるのではないか。
 
・官民分担型上下分離について、国営・公営であった道路や鉄道を民間に委譲、あるいは上下分離で民間活力を活用した事例は世界中で多くあるが、民営のインフラの一部を官営や公営にした事例やその際に最も課題となる点はあるのか。日本でもPFI やPPPが推進されているが、基本的には国や公有、民有という方向である。経営破綻した銀行や航空会社に政府が支援した事例はある。
 
・地域鉄道(地方鉄道)では国が地域との連携策など支援するなか、公有民営(上下分離)という形態が増えてきている。鉄道存続のためにインフラに関する費用を自治体が負担するという、補助の延長線上の事例と言え、鉄道事業者はインフラ負担から解放ないし軽減されて、廃線に至らないようにする効果がある。
・ただ、目的が線路の存続だけとなってはあまり意味がない。公的資金を使うのであれば、都市整備・都市運営の一環とし、ネットワークと運行頻度等のサービスレベルに着目して投資すべきである。それを可能とする官民分担型制度という観点で見ると、整備新幹線、都市鉄道等利便増進法が鉄道分野では事例となる。地方ではまだこのようなところまでは進んでいないため、whatではなくhowが重要ということである。
 
・土地利用を変えるとCO2排出量はどう変わるかという検討を行ったが、期待するほどの数字にはなかなかならない。暮らし方自体に手を加えないと何も変わらない。Newman-Kenworthy型で30年間追跡すると、日本の地方都市は、コンパクト性は変わらないが車のCO2排出量が約3倍に伸びている。自動車の複数保有が進んだことにより、暮らし方が変わったことによるものである。コンパクト性とは関係ないところでCO2が変化していることから、暮らし方に手を加えなければいけない。
・特に電力において、規制緩和をどう考えるかによってCO2排出量の数値が変わる。日本の街は都市計画的に失敗しているところが多く、集合住宅と戸建て住宅がばらばらになっているエリアは、見た目はスマートではないが実はスマートグリッドを入れると相互に融通ができ、一見スマートに見えない日本の旧来の住宅地は太陽光発電と電気自動車をうまく組み合わせ、相互融通することによりCO2を削減することができる。セットで考えることにより数値として見えてくる。
 
・非連続な空間構造の転換を国土交通行政で展開していかなければ、マージナルなチェンジだとカーボンニュートラルにつながらない。産業と都市との分離をもう一度見直し、産業立地と近接する形で高密度な土地利用をindustrial synopsisとindustrial urban synopsisという考え方であるが循環経済につながる。ドイツやスウェーデンなどのヨーロッパでは、新しい工業団地の立地を都市に近接させて、資源循環を効率化しようという動きがある。机上の計算ではあるが、大規模なエネルギー施設の排熱も活用できるようになり、エクスクルーシブであった産業と民政の土地利用をこの機会に考えるべきである。
・カーボンニュートラルがどう地域経済成長に繋がるかについて、カーボンニュートラルはこれから10年、コストがかかる。化石燃料に比べて再生エネルギーはコスト高になる。ドイツや北欧などヨーロッパの研究者と議論すると、カーボンバリュー、カーボンコストは2030年以降急上昇していく。先行投資としてのソーシャルトラディション(社会的伝統)に投資をすべきという議論が、ドイツの研究者やIIASA(International Institute for Applied Systems Analysis)、ポツダム気候影響研究所の研究者等と政権の間で行われている。
・従来の低炭素ブームとは違う域に来ており、IPCC賞を含めたサイエンス側でクライメイト・クライシスのコストを定量化できているため、国際社会として脱炭素はデファクトな論理になっており、この論理に対して日本がいつ踏み込むか。ここ10年は高コストになるが将来の世代の投資・貯金と考え、財政の膜を広げて国土全体を一気に変えるのではなく、部分的な社会システムイノベーション投資を複合的、社会実験的に実装し、社会展開を広げていくアプローチが必要ではないか。
 
・地方鉄道をどうサステナブルにするかという観点において、LOS(運行頻度等)をどう保つか。対策としてスキームが重要なのはわかるが、テクノロジーという意味で諸外国の鉄道の利用のフィーダーとの連携やテクノロジーとして保っていきサステナブルにしていく取り組みなどの工夫が必要である。
・カーボンニュートラルや民主党政権に(CO2 1990年比)80%削減という議論が長く行われてきたが、何か突破口を作っていかなければいけない。どうすれば突破口を開けるかがポイントである。府省庁を中から変えていく案もあるが、最終的には国民、利用者が変わらなければいけない部分もある。あるいは様々な自由についても一定程度、制約を受ける部分もあるかもしれない何か突破口を作っていかないと変わらない。
 
・都市の密度とCOVID-19の感染者数の関係については、日本の場合、公共交通に乗っている人はマスクをして静かに座っている。アメリカの自動車に乗っている人は暮らしの中で話しながら互いに接触している局面が多いのではないかと類推される。
 
・政策を実行するためには制度が必要である。欧州では船・レール・バスなどは都市経営の一環として同じ行政の範疇になっている。テクノロジーについては連携・技術開発を含めて日本と違いがあると感じている。日本の地域鉄道の場合、経営しているのがやっとで、テクノロジーどころではない。欧州では国、地方自治体の所掌となっているため、テクノロジー面もケアは容易である。
・地域鉄道事業者は自社の利用データそのものを概して把握していない。公共交通に政府がコミットしている欧州では情報公開が進んでおり、運行頻度をどう変えるかについても住民への説明や、意見を聞くなどして改善している。データ面、制度面は、テクノロジーの基盤になるものであるが相違がある。
 
・カーボンニュートラルなどの議論の突破口について、イノベーション特区のような形でデモンストレーションを各省連携で行う必要がある。府省庁横断で規制緩和ができており、加えて将来価値にも見据えた公共投資を集中的に行う場所を日本の数十カ所で一気に設けて、システムイノベーションをニッチイノベーションから起こすようなことをやらないと、総論はいいが各論が実現しない。
 
・マクロな密度とミクロな密が混同されているという話で、ミクロな密は避けつつ、マクロな密度はつくりつつ、さらにマクロに見ると国土レベルの分散ということが含まれている。求められているのは郊外化でうすく住むということではなく、ある程度の密度のある都市的な文化・生活が送れる場が分散しており、それぞれ多様な都市性を持つというイメージなのではないか。これまで進めてきたコンパクトなまちづくりという政策は重要である。コンパクトなまちづくりを進める際に、単に人口密度を高めるという指標だけではなく、機能の密度や組み合わせを見ていく必要があるのではないか。可能であれば文化政策等とも連動した方がいいのではないか。交流の密度や頻度で文化が生まれるため、多様な文化やイノベーションが生まれるような人的交流が大事であることから、公共空間・公共的空間が大事だと言われている。毎日の通勤と言うよりは、多拠点居住や異なる環境、コミュニティーの交流を促す移動が不可欠である。コンパクトなまちづくりをこの状況において改めて位置づけるとするとどのような解釈、新たな意味付けがあるか。
 
・コンパクトなことをはかる上で密度を指標とする人が多いため、資料では密度のみで示している。「コンパクトシティは文化ではないか」というのは2000年頃の国際会議で既に言われており、国際的にはそのように整理されている。「駅前にタワーマンションを造れば、コンパクトシティではないか」と言う人がいるが、これは間違いである。人の移動や何をしているかなどアクティビティも含めて考えるものである。
 
・これまで再生可能エネルギーというと、地方分散型と言われてきた。エネルギー基本法でどれぐらい出すとしっかり規定されていなかったため、発展させるために分散と言っている面もあった。2050年のカーボンニュートラルですごい量の再生可能エネルギーが必要になった。コストも下げなければならず、2050年頃には、おそらく大規模なものが造られるということが中心となって色々なことが動いていると理解している。一方、地方のエネルギー事情では地熱エネルギー、海洋エネルギーなど、それぞれの地方で特徴あるエネルギーもある。マイクログリッドのような取り組みを行った時に、横展開した場合にそのままのスタイルで横展開できるのか。
・日本全体を見ると、どのようなエネルギーがどこでどれぐらい必要かということがエネルギーを取り扱うセクターに伝わることも重要である。つまり連携をしっかりやらなければいけない。
 
・経産省がエネルギー基本計画を今年改定し、カーボンニュートラル宣言に応じて大幅に再生エネルギー主流型に転換している。規制緩和とともに、系統系の電力会社の系統接続に対する取り組みが変わった印象がある。分散型エネルギーが系統接続できず、地産地消や高いバックアップ設備のコストが必要であったことが変わってくると思われる。
・今の経産省の事業だと需要側の誘導は政策に上がってきていない。国土交通政策の中での都市の誘導転換とエネルギーが必ずしも分散だけではないと考える。大型のものと分散型と系統の強化を連携させた形で1~10万人程度ではなく、一自治体や50万人程度でグリッド化するようなことを各地域にエネルギークラスター化するようなことが行うためにも、需要政策と連動しないと供給側だけがお金を投入してもカーボンニュートラルにならない。
 
・議論の中で様々な議論・提案されてきた政策を効率的・革新的に効果のある政策として結びつける上で、大事なのは要素技術である。政策論を立てていく中で、ベースとなる技術開発をどう平行して進めていくかを議論の中で落としてはならず、両輪として取り組み、認識しなければならない。
・CO2の排出について、地上人工物レベルで見ると建設業において地上人工物を造るために必要とされるCO2排出量は30~40%に上るという考え方もある。コンクリートを低CO2化するという技術もある一方で、錆びない鉄筋を使うことにより、メンテナンスコストを下げるだけでなく、コンクリートへの埋め込みを数十ミリ減らすことができ、飛躍的にコンクリート構造の使用数を制限できる。
・原発45基分の風力発電を日本に整備するという計画も発表されているが、風力発電設備はほとんど海外からの輸入に頼らざるを得ない状況にある。10年前にヨーロッパが世界の半分の大型風車を造っていたが、この数年間でアメリカ・中国と三分割するところまで拡大している。日本の風車は1,2基を実証基導入する観点で進めきた政策が逆にマイナスとなって、風力発電の産業化の基盤を失うことになっている。導入や効果を得るための政策を進める一方で、基本技術をサポートして続けていくことが重要である。
 
・環境バブルではないかという発言に対し、そうではないという意見があった。確かにその通りであるが、例えばESG投資に対してのEUが作っているタクソノミーではEUが強いことしか書いていない。中国のカーボンニュートラル宣言においても中国が強い、力を入れていることを主導にしている。成長戦略や産業政策を考えた場合、したたかさを同時に持っていなければいけない。 
洋上風力や太陽ソーラーパネルも昔は日本がリードしていたが今はほとんどが中国製である。中国に取られている現状がある中で、今後どうしていくかが問題。
・要素技術は小さいことにも気を配っていかないといけない。ダムのかさ上げは日本ではなかなか進まない。古い利水ダムはほとんど減価償却が済んでいるため、税金がかからない。かさ上げをすることにより新価値が出ると、固定資産税額が増えるがあまり儲からない。税制の問題であり、同じような問題が色々なところで邪魔をしている。道路の長期ビジョンも同じで、同じ例がたくさんあり、しっかりケアしていかなければいけない。
 
・どのように具体的に実践していくか、これから具体化に向けてどうするかが課題であるため、モデルと実例がポイントではないか。要素技術、具体的な地域での実践をどうするか。実際にやっていこうとすると、色々な対策を足し算していきつつ、被害であれば引き算をするように、コーディネートしていかざるをえない。今日の議論を頭に入れながら、具体的な実践や地域での実践が進んでいいのではないか。
・東京一極集中は問題であるが、例えば名古屋はちょうど適正規模で自立分散型の街であるため、適正規模の街をどう捉えるかを考えていかなければいけない。東京はあらゆるものに依存していて、あまりにも大きく、その間が分かれていないため問題である。では名古屋はどのようにしていけばいいか。
 
・三大都市圏のみならず、都市部と地方部において都市化が進行しているという問題がある。各都道府県の中で中心都市や中核都市が拡大してきている。各地域ブロックでも中心都市が拡大している。その背景にはデフレや不況の進行などにより、都心部でしか仕事ができないという問題があり、地方は衰退してきている状況にある。
それぞれの都市の適正規模に関して、名古屋は確かに自立した都市でもあるが、名古屋が吸収してきたものの中で、吸収しすぎた部分も考えられるのではないか。日本海側や愛知県の他の場所、岐阜県・三重県等に分散していたものが集中してきている。名古屋が利益を得る一方で、地方、周辺、日本海側がデメリットを受けてきた。
基本的人権という言葉があるが、それぞれの地域や都市などにも人権に相当する基本的地域権のようなものが本来あるはずだが、毀損してきている。名古屋や三大都市圏には過剰な集中があるのではないか。名古屋や大阪だけで考えるのではなく、日本全体のそれぞれの地域に権利があり、権利に適切な規模の自立できる分散をしていくことが必要なのではないか。近代法の理念に基づいて考えなければいけない。
 
・欧州ではCO2自体が政策目標になりえており、鉄道に対して、政府がインフラを調達し、更に運行について3~8割程度を費用負担している。日本の場合、公有民営という方法はできているがインフラについての負担であるため概して実質4割程度の支援である。運行部分に官がコミットするところまでいかなければ、HOWには届かない。
・鉄道事業者には情報を開示しない傾向が見られる。輸送データなどについては、国交省のデータ駆動型政策が期待でき、実際、国でコミットできると感じている。
 
以上

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