第16回国土交通技術行政の基本政策懇談会 議事要旨

第16回国土交通技術行政の基本政策懇談会 議事要旨

1.日時
  令和2年12月15日(火) 15:00~17:00
 
2.場所
  国土交通省3号館8階特別会議室


3.出席者(五十音順、敬称略)
  委員:石田東生、伊藤香織、鵜澤潔、金山洋一、木下剛、小池俊雄、小林潔司、高木健、中川聡子、羽藤英二、福和伸夫、藤田壮、藤野陽三、二村真理子、堀宗朗、松尾亜紀子、山田正

4.議事
1.今回のテーマについての議論
<テーマ>
「防災・減災、国土強靱化」
2.その他
今後のスケジュールについて
 

 
5.議事概要
・MP-PAWR(マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ)は、ぜひ国交省を中心に進めていくべき技術である。ゲリラ豪雨、竜巻にも使うことができ、道路、空港など全てにおいて防災が進む。MP-PAWR はSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で始めた事業として府省庁連携の良い象徴になる。国交省の貴重で先端的な気象情報は他の府省庁でも活用でき、連携という意味で日本展開できれば非常にいいと思う。
・MP-PAWRは国際特許も取得を目指す防災の先端技術と認識している。また、河川に限らず、道路・港湾・空港でも利用可能である。MP-PAWRの利用をぜひ国交省全体で考えてもらいたい。先端技術を利用する総合防災を世界に広める上でも中核的な技術になると期待している。
 
・今日色々なキーワードが出てきた中で、ひとつの大きなキーワードは「連携」だと理解している。北海道のブラックアウトや千葉の停電では、電力が止まったことにより、水道にも影響を及ぼし、他のインフラも止まるという問題が発生した。複合災害をここ数年間で我々が認識し、水害・地震・COVID-19などの複数のハザードが脳裏に残る災害に対して、どう対処していけばいいかという考え方が大分深まってきた。複数のインフラが被害をお互いに及ぼし合う複合災害に関する概念もインフラ側に入れていった方がいいのではないか。
・資料3-6で「連携の重要性」が述べられているが、つながるということはなかなか難しい。巨大な情報システムを作ればいいという問題ではなく、各システムをひとつずつつなぐことにより最終的に最初と終わりがつながるような、このようなつながりをいかに確立していくかということである。今課題となっているDXも、ひとつのある組織から別の組織へ情報が流れないという問題を抱えており、これを克服する、つながりを求めていくことが必要になる。国土強靱化の問題、どのように安全なまちづくりをしていくかについても根っこは同じなのではないか。
・強靱化リダンダンシーについては、国民が復興や復旧に対してひとつの目標・イメージを共有化することが非常に大事である。例えば人命は24時間、道路の復旧・警戒は1週間で終了するといったことに向けて努力することが必要ある。いろいろなレベルのイメージがあるが、このようなことが先行することで事前の復興につながるのではないか。そういうところの共有化は図りやすいが現実的につなげていくというのはいろいろな地域との連携を積み重ねていかなければいけない。
 
・道路や鉄道を絶対的・最終的な守りのところにも使えるということを考えなければいけない。例えば都市河川であれば、堤防の中に道路を入れる。トンネル式の堤防になり、道路の方が堤防よりもはるかに丈夫になる。
・MP-PAWRは風・雨・雪を全て瞬間的に測ることができる。道路と洪水被害の連携を取らないと走行車の処理や避難の際に混乱を起こしてしまう。MP-PAWRは道路、鉄道、航空等、全分野で使えるため、必ずしも水管理・国土保全局含め国交省が全部作成し、維持管理費まで負担する必要はないのではないか。利用者が少しずつお金を出し合う仕組みがあっても良いのではないか。
・NTTドコモは電波の基地局に雨量計を設置しており、その数は国交省及び気象庁が持っている数を超えている。民間が持っている防災情報も有効に使わざるを得ない時代とも言えるのではないか。
 
・「日本は世界で非常にまれな成長しない国となっている」(資料3-6)に関して、国交省が所管している事業、政策について、成長しない国になってきたのはなぜかという視点で掘り下げ、具体的に考え、政策等に反映させるといった議論はなされているのか。
・強靱化について様々な観点や取り組みがあるが、復旧・復興について、質・スピード的にも更に突っ込んだ議論が必要ではないか。
 
・事業評価というとB/Cのような微分的な評価をしがちである。固定資本というような観点でこれからは積分型の評価に転換していかないと非常に問題である。予防安全や事前復興という話があったのは、国土計画を再帰的に終点や中点の都市地域像から逆算し、今どのようにしていくかを制御していくことが必要なときには、固定資本という観点での評価技術・制御技術をやっていかないと、災害時代に人口減少が進んでいるのにもかかわらず、また過大な復興をしてしまう事態になりかねない。
・都市地域像を共有していく際にCOVID-19の話がそれほど多くなかったが、リモート化で中長期的には国土像というものが非常に大きく変わらざるを得ないのではないか、ということを交通関係の方々は最近議論している。
いわゆる分散型国土像について、首都から人口が減り始めていることや、それがいつまで続くのか、中長期的にはさらに進行する人口減少という中でビッグピクチャを描いて、それに合わせた制度設計をしていかないといけない。この考え方は正しいと思うが、予算が無尽蔵にあって鉄道も道路も水門も対応できる・対応しようという考え方のもとで、制度設計次第では連鎖する災害に対応できなくなるという可能性もある。制度設計を地域の人々、産業界を含めて考えていかないと非常に危うくなる。
 
・事業評価における積分の情報という話があったが非常に大事なことである。衛星情報などが簡単に手に入ってきた、国土の継続的なモニタリングやB/Cをやっているのは分担された情報であり、計測した時間が違う情報がばらばらで溜まっているだけである。全て網羅的に計測していくような仕組みが必要であり、国土の評価をしていかなければいけない。
 
・道路を作れば堤防と兼ねることができるのではという意見に関して、京都府の由良川の横に国道が通っており、堤防が完成できないため、家の高さを上げて助けていこうという河川の計画があった。家を上げると道路が下にあり、水害時に使えないため、家と同じ高さに道路を造ることで堤防の代わりになる。そうなると道路と堤防の計画を連携して行う必要がでてきた。現在はばらばらで進めているため、まだ完成していないが、そういった考えを持ちきっちりとやっていく、連携の時代が来ていると考えている。
・水害の時に雨が多く降って、京阪電鉄の線路沿いから京都市地下鉄に水が流れ込んだ。これにより、地下に電源があったため、地下鉄が約1週間使えなくなった。京都市としては地下鉄が使えず不満はあったようだが、水が地下に溜まり、地下鉄が使えなくなったことにより山科の家が助かったのではないか、という考えもある。流域治水をどうやっていくかということは、まちづくりと他の社会資本とどう連携していくかが非常に難しい問題であり、大切な問題である。
・「成長しない国になっているのはなぜか」については、成長するためには海外との戦いもあり、国内でもいろいろな競争がないと成長はしないのではないか。失敗してもいいから新しい技術・モノに挑戦するというマインドが年配の人よりも若い人にある。そのマインドをどう植え付けていくかが重要であるが、一瞬の効率性のB/Cを重要視してきただけでは、失敗はダメだというメッセージになりかねない。B/Cとともに挑戦するというマインドをどう植え付けていくかが重要だと考えている。
 
・日本は人口減少や超高齢化、激甚化・狂暴化する災害などにより、劣化している現状にあると思う。問題なのは劣化している現状におびえて、立ちすくみ、何もやっていないということである。挑戦することがおろそかになっている。
外力想定で人口減少を外力として考えてはどうかという意見があるが、人口が減るから何もしなくていいと言う方がまだいる。国債があるから全然ダメだという方もいる。今年の国債発行額は112兆円になるそうだが、出せばいいという問題でもないが、そうせざるを得ない状況もあって、そういうことを思い切ってやってこなかったのが平成の30年間である。
20数年間の名目GDPの伸びについて、世界で約140カ国の中でマイナス成長しているのが日本とリビアだけである。内戦で苦しんでいる国と、本当に国民はまじめで頑張っている国が同じマイナス成長になるのは、大元の政策が間違っているとしか思えない。これはやはり財政政策だと思う。積極的な財政政策を行うべきと主張する有識者・研究者もおり、説得力もあったが、世論の支持がついてこないのは、社会資本整備を行えば経済成長するということに対して、必要条件は言っているが十分条件は何も言っていないためである。その実例や事例、モデルをどう提案して、コミュニケーションしていくかが非常に大事である。
・評価に関しては、色々なことを多面的に考えなければいけない。デジタル化で何が良いかというと、いろいろなものがリアルタイムでマネジメント、モニタリングできるようになり、そういう環境にいることである。そういう点からバックキャスト、リカーシブ(recursive)などいろいろな言い方をするが社会資本、地域計画、国土計画のマネジメント性をどう高めていくかが大事である。
口で言うのは簡単であるが、あきらめない心、挑戦する心というのは大事であり、見習わなければならない。
 
・DIAS(データ統合・解析システム)を使った風水害対策は素晴らしい技術だと思う。今風水害が非常に脚光を浴びているため、マスコミがいろいろ取り上げているが、やはり持続するためには、しっかりとした組織に後ろ盾になる必要がある。このような先端技術をいかに持続的な使用をぜひ組織力のある国交省が中心にやってほしい。
・SIPで、九州大学と河川情報センターが中心として市町村向けの統合情報システムを開発している。各府省庁からのデータを非常に先端的な情報連携を実現した情報システムを総務省レベルでも作りつつある。小池先生の研究成果もうまく取り入れて、ぜひ災害対応が持続し、一過性で終わらない、風水害のときだけ大騒ぎし、終わると潮が引くようにいなくなるようなことがないように組織対応を国交省には考えてほしい。
・要素技術は十分なものができている。うまくシステム化すれば非常時に慌てることもなくなる。なお、大学は先端的な要素技術の開発は得意であるが、システム化や持続は不得意である。逆にしっかりした組織はシステム化や持続に強い。大学の要素技術の開発と組織のシステム化・持続は使い分けを意識して欲しい。
 
・関東の鬼怒川が決壊した時の関東・東北豪雨の調査結果において、浸水深に対して本格的再開までにどれぐらい復旧するか示した「治水経済調査マニュアル」がある。平成7年に作成されたものだが、関東・東北豪雨は復旧に長い時間がかかるということがわかた。日本は高度経済成長から安定成長・低成長に入り、水害ですら復旧が十分にできなくなってきている社会になろうとしている。地域がちゃんと成長することを考えなければ、この先激甚化するハザードに対して国がもたない。その中でどのような対策が必要かということで、いろいろな方が話をするが、連携、俯瞰、全体デザインなど全体を見ることの重要性がひとつある。それに加えてディテールが重要である。ある企業と企業が協力するためには、その間をつなぐ様々なことを協議していかないと理想だけでは繋がらない。全体の俯瞰とディテールをおさえることが極めて重要になってきている。
・次期の社会資本重点計画の大枠について、もともと各計画が縦にばらばらで並んでいるだけであったため、議論・修正を重ね、それぞれを連携させる基本的な枠組みを考えた。全体を俯瞰しながら、ディテールをつなぐ部分をしっかりおさえていくと、これまでの議論にあった内容が実現しB/Cだけではない積分型の社会というものができるのではないか。
 
・地域からの視点、自立住宅という提案に共感した。千年村プロジェクトという研究プロジェクトの中で日本全国の千年村マップというものがある。、平安時代からおそらく定住が続いているであろう定住地は何千カ所もあるが、千年村マップではそれらが現在どこにあるかを色々な手法で特定し、マッピングしている。
水害や災害が起きるたびに千年村マップと比較しているが、千年村にある場所(大字を単位に特定)は、水害に関して言えば水害深など、被害が周辺と比べると低い。インフラが十分に整備されていなかった時代にあって、まさに自立・自営の手段として、稲作をやらなければいけないため水に近づかざるを得ない中で、より安全な場所に定住地を定めた。日本は災害が多いと言われながらも、千年の知恵があり、都市の歴史は非常に浅いが地域から見ていくとまさにレジリエンスな立地や土地利用を続けてきた地域がある。インフラの整備はともすると自営や自助、その様な意識をインフラに頼っていれば良いという弱める方向にいきがちな部分がある。この様な人々の地域が自分たちの地域が安全な地域である、ということを一方で意識していくような自立性を高める取り組みも必要なのではないか。
 
・災害のために予算が計上されているのは非常にありがたいことだが、ぜひ研究費も計上してほしい。土木系は研究費があまり出ないため、大学の先生も研究が進まない。研究をやる以上、SIPが典型的な例だと思うが、先端分野・先端技術とうまく連携してほしい。土木分野の研究者が先端分野の研究者に持ちかけ、一緒にやる体制で土木の災害はフィールドだという認識が高まることを期待したい。
・災害用のロボットなどが話題によく出るが、災害は頻度が高くないため、災害のためだけとなると開発しにくい。新規の建設工事、これから増える補修工事などにも使える多目的型の技術を開発していくことが大事ではないか。
 
・人口減少等に対して、所与のものとせず、挑戦し続けることは、長期的な強靱化につながるベースとなる。
・国交省や有識者で何ができるかということについて、基本政策懇談会などで焦点を当てて、議論できないか。今後の議論や整理において、そうした価値観や評価を意識しながら進めていく必要がある。
 
・ここ2~3年で水害に遭った街のその後の人口の動きを調べた。約10年前は、膝下ぐらいまで浸かるぐらいであれば仕方ない、という世論がメディアを中心にあった。しかし、水害後の人口動態の調査結果から、若い人ほどその街から出て行く傾向があるということは理解しておく必要がある。
 
 
以上

ページの先頭に戻る