建設産業・不動産業

新たな保証制度に関する実務研究会

平成14年7月19日
 
<問い合わせ先>
総合政策局建設業課
TEL:03-5253-8111(代表)
(内線24714、24725)
 
 国土交通省では、平成13年12月以来、外部の有識者からなる標記の研究会において6回の会議を開催し、我が国の公共工事において新たなボンド制度の導入の可能性、その制度設計、検討すべき課題等について検討してきたところであるが、その結果がまとまったため、本報告を行ったものです。
 
 
 
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新たな保証制度に関する実務研究会報告概要
 
1.はじめに
 
 入札ボンドについては、受注者選定の過程に市場性を加味することにより発注者のリスクをヘッジし、併せてそれにより市場を通じた淘汰・再編を促進する観点から、また、公共工事の受注者選定における恣意性の排除の観点から、効果を有するとの指摘。
 さらに、元請企業の破綻から下請企業を保護する観点から、下請ボンドを検討すべきとの要請。
 本研究会は、こうした要請に対応し、我が国の公共工事において新たなボンド制度導入の可能性、その制度設計、検討すべき課題等について検討。
 
2.ボンド制度をめぐる議論の経緯
 
 入札ボンドに関しては、平成5年度から6年度にかけて、一般競争入札の導入等の入札契約制度改革の一環として検討。
 この際には、入札ボンドは、主に、発注者の恣意性の排除や、一般競争入札の導入に伴う発注者の審査事務の軽減等の観点から検討。
 導入に当たっての問題点が指摘され、今後引き続き、検討すべき課題と総括。
 
3.米国のボンド制度の概要
 
(1)入札ボンド及び支払ボンドの現状
 入札ボンドは、公共工事の入札参加者が落札したにもかかわらず、契約に至らない場合の発注者のリスク(再入札費用等)に対応するため、入札参加者に義務付けられるもの。入札ボンドを発行して履行ボンドを発行しない例はほとんどなく、事実上、入札ボンドは履行ボンドと一体のものとして機能。
 支払ボンドは、元請業者の破綻等の場合に、下請代金等の支払をボンド引受機関が行うもの。米国では民間工事では代金の支払がない場合には対象工作物についてlien(留置権)が認められているが、公共工事においてはこれが認められず、元請業者が破綻した場合、下請業者や資材納入業者が発注者に対して支払請求がされる事態を避けるため、支払ボンドの制度が整備。
 
(2)ボンド会社及びブローカーの現状
 米国のボンド会社は概ね1,000社程度。ボンドを引き受けるためには、当該ボンドに係る公共工事を発注する連邦政府又は州政府への登録が必要。米国でも景気の下降とテロの影響等から建設業者の破綻が相当増大し、ボンド会社の収益性は低迷期に入りつつあり、保証基準の厳格化や保証枠の縮小が顕在化。
 米国では通常建設業者が直接ボンド会社と交渉することはなく、ブローカーを通じて交渉。ブローカーは、ボンド会社の保証料率等を比較して最も条件のよいボンド会社にボンドの引受けを求めることにより、市場仲介機能を果たすとともに、その存在がボンド会社にとって無用の圧力を避けるためのバッファーとして機能。
 
(3)与信審査
 ボンド引受けの与信審査は最初のボンド発行時点で厳格に行われ、設定された与信枠を超えない限り、各入札時点での審査は比較的容易。
 ボンドを引き受けている全ての建設業者の与信管理はボンド会社の本社で一元的に行われ、建設業者のリスク管理、リスク分散のノウハウが確立。
 
4.ボンド制度に対する基本認識
 
 公共工事の発注に当たっては、経営基盤のしっかりした企業により競争が行われることが、発注に伴うリスクの問題と適切な施工を確保する上で重要な課題であり、入札参加時点で保証を求める制度は、発注者のリスク回避の手法として大きな効果。
 また、建設投資が急速に減少し、建設産業全体に供給過剰感が強まる中で、建設産業の淘汰・再編を進める上でも、市場の約2分の1を占める公共工事の発注について市場原理に沿ったものとすることが必要であり、入札参加時点で市場の選別を用いるボンド制度は大きな意義。
 一方、入札ボンドの導入により、入札契約制度の透明性、競争性が格段に高まるものではないものの、入札契約制度改革と相俟って、公共工事に係る様々な不正行為の排除に一定の効果。
 下請ボンドについては、元請企業の破綻リスクから下請企業を保護する観点からの検討は必要であるが、元下関係が契約によって明確に規律されている米国と異なり、我が国では明確な契約がないまま工事が行われることが少なくないなど、商慣行にも大きな差。下請ボンドのみに下請保護を期待することには無理。
 
5.新たな保証制度の基本的な制度設計案
 
(1)入札参加時点での保証の性格
 我が国においては落札者が契約締結を拒否することはこれまでになく、落札した場合の契約の保証はほとんど意味がないことから、入札参加時点で履行ボンドの予約(ないしは条件付契約)を求めることとすることが適切。
 
(2)ボンド引受けに当たっての審査
 入札参加時点の保証=履行ボンド予約は、公共工事の受注を希望する建設業者の経営状況を審査し、与信の可否を判断するもの。公共工事の受注者選定に当たって必要な技術力の審査等を入札ボンドに委ねることは困難。
 
(3)発注者による受注者選定との関係
 公共工事の受注者の選定は、最終的には発注者がその責任において行うべきものであり、履行ボンド予約は入札参加条件の一つ。
 
(4)ボンド引受機関
 履行ボンド予約の引受機関は、建設業者の経営状況を的確に把握し、経営状況に応じた与信枠設定のできる者であることが必要。
引受機関として想定されるのは、損害保険会社、都市銀行、地方銀行等の金融機関等。
 
(5)履行ボンド予約の対象工事
 1.8万5千社以上にものぼる数多くの公共工事の受注業者について、入札参加の度にタイムリーに経営状況を判断し与信業務を行うことは事務が膨大となること
 2.中小規模の工事については、受注者が破綻した場合も発注者の被る損害は限定的であること
等から、当面、一般競争入札の対象となるような大規模工事を対象とすべき。
 
(6)会計法令に基づく保証制度との関係
 履行ボンド予約は入札参加時点で履行保証を受けられることが確実であることを担保するものとして取得を求めるものであり、現在行われている履行保証の一形態として位置付けられるもの。
 
(7)履行ボンド予約の保証料(手数料)
 我が国においては、入札参加時点に一定の審査を行うこととなることから履行ボンド予約は有料となるものと想定。
 
(8)経営事項審査との関係
 履行ボンド予約が導入されても、受注者選定を行う発注者の判断材料としてのデータが必要であること、履行ボンド予約が、当面大規模工事に限定したものとならざるをえないことからも、経営事項審査については引き続き行うこととすべき。損害保険会社等からも経営事項審査はなお重要な役割と指摘。
 
(9)下請ボンド
 制度導入に当たっては、少なくとも、書面による契約の締結の励行等元下関係の適正化、下請けの出来高査定を簡便に行うシステムの確立等は不可欠。
 
 
6.新たなボンド制度導入の可能性
 
各損害保険会社においては、
 1.海外の再保険機関による日本の建設業向けの再保険枠はむしろ狭められる傾向にあり、履行ボンド予約引受に伴う新たなキャパシティーの確保が極めて困難であること
 2.審査件数の大幅な増加と与信管理負担の増大に対応するため不可欠な新たなシステム整備や審査人員の確保について現状では収益性に疑問があること を理由に、現時点での新たなボンド制度導入によるボンドの引受けは困難との認識。
 都市銀行等の金融機関、前払保証事業会社についても、主たる引受機関とすることは困難であり、既存の機関以外に新たな引受機関の設立も難しい状況。
 こうしたことから、現状においては、現時点での履行ボンド予約の制度導入は主に引受機関の問題から困難。
 
7.今後の検討課題
 
 引受機関の観点から直ちに新たなボンド制度を導入することは困難であるが、新たなボンド制度導入の意義は大きく、また、経済環境の変化に対応して今後速やかに導入が可能となるよう、引き続き以下の点について検討を進めるべき。
 
(1)実現可能な制度設計上の課題
1.引受機関の引受能力(キャパシティー)を広げる方策
 引受機関である損害保険会社として最大の課題はキャパシティーの確保であるとの認識が示されたところであり、制度を実現する上ではまずキャパシティーの確保方策の検討が必要。
2.履行ボンド予約と引受機関の与信枠の設定との関係
 予約を行う全ての建設業者の落札・契約を前提に与信枠を設定することについては、米国の例を参考にさらに検討を深める必要。
 
(2)関連制度等との関係
1.ボンドの付保割合
 国土交通省発注の一般競争入札対象工事においては、発注者のリスクヘッジと経営悪化企業に対する受注の歯止めを期待して、履行保証割合を引上げ。履行ボンド予約を導入する場合、引受機関の与信枠との関係等から、付保割合を3割とするかどうか検討が必要。
2.前払金制度との関係
 履行ボンド予約の導入に当たっては、前払金制度の支給割合や支払方法について、大規模工事の受注者に十分な資金調達力を求める観点から、部分払制度の導入と併せて見直す余地はないか等について検討が必要。
 
(3)その他
 一般競争入札の場合、入札参加資格の確認申請に併せて履行ボンド予約を提出することとするのか、入札期日に提出することで足りるとするのか、整理が必要。
 
(4)下請ボンドについては、制度上、運用上の課題
 米国では、民間工事では下請企業に留置権が認められており、これが適用除外される公共工事で下請企業から発注者に下請代金が直接請求されることを防ぐために支払ボンドが法律により制度化されている。こうした制度上の前提条件が異なる中で下請ボンドを導入することが可能か。
 我が国では実態上、元請・下請間で書面による適正な契約が締結されない場合が少なくなく、また契約変更がされる前に現場で工事の設計変更がされる場合が見られるなど、米国とは契約慣行の違いが大きい。契約が確立していない中での下請業者への支払が可能か。
 米国では、訴訟により簡便に下請業者への支払債務が確定されるが、裁判が長期化する我が国において保証事故が起こった場合に誰がどのような基準でボンドの支払対象の下請債権を査定するのか。
 
(5)下請保護のための施策の検討
 元請業者の破綻に伴う下請保護については、特約による発注者から下請への直払い等についても検討する必要。
 また、部分払も元請の破綻による下請の被害を最小限にする観点からも具体化に向けての検討が必要。
 
8.終わりに
 
 新たなボンド制度の実現に向けては、再保険の問題をはじめとする市場として受け入れるための条件が整うことが不可欠。米国の景気低迷とテロの影響により、世界的に再保険市場が収縮しており、本研究会としては現時点での制度導入は困難と判断せざるを得なかったところ。
 今後、本研究会の検討結果を踏まえ、関係者の間で実現に向けた幅広い議論、検討が進展することを期待。
 
 

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