21世紀の国土・地域・社会と道路政策の在り方について
−21世紀の国土・地域・社会と道路政策検討小委員会における検討経過報告−
 平成11年7月29日に、建設大臣から道路審議会に諮問された「21世紀の国土・地域・社会と道路政策の在り方」(諮問第49号)については、同審議会基本政策部会を中心に審議にあたることとし、専門的かつ集中的に検討する観点から、同部会に「21世紀の国土・地域・社会と道路政策検討小委員会」を設置し検討を進めているところである。
 同小委員会においては、まず、「道路が果たすべき基本的な役割と提供すべきサービス」、「国土・地域づくりの観点からの道路政策の在り方」、「くらしを支える道路政策の在り方」を中心に検討を進めることとし、各委員からの意見発表や特定のテーマについて実施した研究活動の状況報告等を行った。
 さらに、検討の過程において、特に国土・地域づくり、人のくらしについての検討を進めるにあたっては、人口の減少、少子高齢化等の変化が地域構造や人々のくらしに与える影響を客観的データに基づいて把握することが必要との多くの意見があった。
 このため、各地域における将来人口の変化、高齢化の進展等に関する推計、就学や就業の場、高次医療施設等くらしにかかわる各種施設の立地に関する経年変化等の分析等を行いつつ、検討を進めているところである。
 このたび、道路審議会における審議が社会資本整備審議会の道路分科会に引き継がれることから、これまでの検討過程における主な意見をとりまとめたので、これを報告するものである。

道路審議会の委員の氏名は、次のとおりである。

  宇都宮 象 一
  梶 原   拓
  田 村 喜 子
  西 垣   昭
  藤 井 弥太郎
  山 根   孟
  岡 部 敬一郎
  草 野 忠 義
  中 村 英 夫
  長谷川 逸 子
  宮 繁   護
  横 島 庄 治
  木 村 治 美
  竹 内 佐和子
  永 光 洋 一
  塙   義 一
  山 出   保

また、基本政策部会の委員の氏名は、次のとおりである。

委員
  竹 内 佐和子
  横 島 庄 治
  田 村 喜 子
○ 山 根   孟
  中 村 英 夫

専門委員
  井 堀 利 宏
○ 石 田 東 生
  金 本 良 嗣
○ 残 間 里江子
○ 杉 山 雅 洋
  中 西 光 彦
○ 橋 元 雅 司
  松 村 みち子
  望 月 清 弘
○ 屋 井 鉄 雄
  飯 沼 良 祐
  磯 田   晋
○ 川 嶋 弘 尚
○ 白 石 真 澄
○ 玉 川 孝 道
  西 谷   剛
  林   広 敏
  水 谷 研 治
○ 森 地   茂
○ 山 内 弘 隆
○ 家 田   仁
  加 瀬 正 蔵
○ 幸 田 シャーミン
  杉 山 武 彦
  中 条   潮
  萩 原   治
  普 勝 清 治
  溝 上 一 生
○ 森 野 美 徳
  渡 邊 修 自

○印は21世紀の国土・地域・社会と道路政策検討小委員会の委員の氏名である。


目  次

(1)ネットワーク・サービス指標
(2)都市・環境
(3)社会空間・文化
(4)マルチモーダルな交通体系
(5)バリアフリー・ユニバーサルデザイン
(6)IT
(7)ストックの保全と更新
(8)政策の評価と進め方

これまでの検討過程における主な論点

これまでの検討過程において示された意見を論点毎に総括すると次のとおりとなる。

(1)ネットワーク・サービス指標

 活力ある社会経済と安心できるくらしの実現に向け、国土、地域、都市の将来目標に対応する道路ネットワークを構築していくためには、次の三つの視点を踏まえてその計画、整備を進めることが必要である。
 第一に、人口約600万人から1000万人程度の規模の圏域を形成することによって経済的自立を進めるための国土の骨格的な道路ネットワークの必要性である。
 21世紀においては、東アジア諸国の経済成長により各地方圏が国際的経済ネットワークの中に直接的に組み込まれ、欧州の各国間の関係に類似の構造が我が国の中にも生じることが想定されるが、これに対し、約600万人から1000万人程度の規模の圏域を形成することによって経済的自立を目指すことが新しい全国総合開発計画の検討の過程においても適切とされているところである。

 第二に、少子高齢化と人口減少期において、人口約30万人から50万人程度を単位として、中山間地域等における都市的サービスの享受等を可能とする圏域を形成するための道路ネットワークの必要性である。
 約30万人から50万人程度の人口規模は、高度医療サービスや文化施設をはじめ一定水準の都市的サービス確保に必要な人口規模であり、この程度の人口規模で必要な施設を互いに利用していくことの方が、各地域毎に小規模な施設を立地させるよりも効率性の観点から望ましい。大都市圏においては、1時間程度の到達時間圏域が一般的な生活圏となっているところであるが、道路ネットワーク等の整備により、中山間地域等においても、1時間程度の到達時間圏域で、約30万人から50万人程度の人口規模の圏域を構成していくことが可能である。

 第三に、道路整備の目標として、時間短縮効果などの交通サービス指標に加えて、人々のくらしに対するサービス指標を提示することの必要性である。
交通量により道路整備の必要性やルート、車線数等を決定するといった交通需要への対応を優先する従来の発想を超えて、学校や病院、公共施設等生活に必要不可欠な施設へいつでもいくことができる、荒天時や冬期においても安全かつ円滑に救急医療活動を行うことができる、あるいは災害時等においても患者を確実に高次医療施設へ搬送できる等の地域の人々のくらしを支える観点からの道路整備の目標を設定し、サービス指標として提示するとともに、くらしからの需要・依存度にも対応した道路ネットワークを整備していくことが必要である。


(2)都市・環境

 都市における交通渋滞の解消、環境負荷の軽減等のため、都市の環状道路整備を早急に進めるとともに、交通の需要調整(TDM(注1))、交差点改良や踏切の立体交差化等によるボトルネック対策、公共交通への支援、違法駐車・駐輪対策、低騒音舗装等を進め、総合的な都市の交通の円滑化と沿道環境の改善を行う必要がある。
 さらに、地球温暖化防止、都市におけるヒートアイランド現象の抑制、雨水管理の向上等の課題に対応するため、都市内に大きな空間をしめる道路を緑豊かな空間とし、透水構造とすることなどにより、より良い環境創出のための質の高い性能や構造を有するようにすることが必要である。

(3)社会空間・文化

 道路が担う多様な役割のうち、社会空間(社会の共有空間)としての役割を再認識し、人々のくらしより求められる道路空間を再構築する必要がある。
 このため、車道を中心として道路全体の構造や利用手法を定める現在の考え方を改め、歩行者のための空間、自転車のための空間、路面電車等の公共交通機関のための空間、緑のための空間、そして自動車のための空間をそれぞれ独立に位置付けるとともに、これらが互いに調和した道路空間を構築していくことが必要である。

 また、国土に張り巡らされた空間ネットワークとしての機能や都市の公共空間としての機能を活用することにより、電気やガス等のエネルギー、上水、電話やインターネット等に係る情報を供給する空間、下水や雨水を流下させる空間、防災空間としての道路空間の整備を進める必要がある。
 さらに、都市の公共空間としての機能を活用することにより、中心市街地やコミュニティの活性化等も含めた多様な役割をあわせ持つ社会空間(社会の共有空間)として、さらには文化の視点で道路の役割をとらえ、憩いのための広場や空間の確保、車道におけるパレードや祭り、市場などの多様な利用に資する道路空間の再整備、トランジットモールやまちづくりと一体となった路面電車の整備などを進め、道路空間の総合的な利用を進めていく必要がある。


(4)マルチモーダル(注2)な交通体系

 交通体系を考える上で、複数の交通機関を組み合わせた輸送が効率よく行われるよう相互の連携の確保及び改善を図ることが重要である。その際、交通手段内部や交通手段間の連携とともに、国土計画、都市計画など他の政策分野との連携や空間利用の面からの連携を含めた幅広い連携による具体的かつ実効性のある交通政策の展開を図ることが必要である。

 道路は、他のあらゆる交通機関をネットワークする交通体系全体の効率的活用を実現する基盤施設であることから、空港、港湾、物流拠点等へのアクセス整備を行うとともに、駅前広場などの交通結節点の整備、都市内への貨物自動車の流入減少に資する環状道路近傍型の広域物流拠点の整備支援、道路公共交通(道路の路面や構造物の一部を使い実質的に道路交通の役割を担う交通)の支援等のマルチモーダル施策を講じることにより、円滑かつ効率的な交通体系の形成を図ることが必要である。

(5)バリアフリー・ユニバーサルデザイン(注3)

 本格的な少子高齢社会を迎えるにあたり、誰もが仕事や社会活動へ参画しやすい環境が求められる。
 このため、高齢者や障害者が円滑に移動できる歩道のバリアフリー化や車椅子等でゆったりと通行できる歩道の整備等を進める必要がある。また、これらの取り組みを、歩車道から分離された自転車道等の整備とも併せ、誰もが利用しやすい道路のユニバーサルデザイン化へと発展させるとともに、地域づくりやまちづくり全体を視野に入れながら進めていくことが必要である。

 一方、送迎型のデイサービス、巡回入浴サービス等の介護活動の多くは、道路を利用して行われているところであり、送迎車や入浴車等の駐車スペースの確保、介護を必要とする人の利便性の向上などのきめの細かい配慮が必要である。

(6)IT

 ITS(注4)技術など発展を続けるITを積極的に活用し、ETC(注5)による料金所渋滞の解消、沿道環境の改善や多様な料金施策の実施、道路交通情報等の情報提供によるドライバー、歩行者等の安全性や利便性、快適性の向上等を進めていく必要がある。
 また、道路行政におけるさまざまな情報の効率的なやりとりを可能とするネットワークやデータベース等の充実を図り、建設コストの縮減、行政手続きの効率化、増加するストックの維持管理の一層の効率化等行政の内部における活動の一層の効率化を進めるとともに、国民に対するアカウンタビリティの向上にも積極的に活用していく必要がある。
 また、道路の国土に張り巡らされた空間ネットワークとしての機能を活用することにより、IT社会における地域や国の壁を超えたコミュニケーションを支える基盤としての役割を果たしていく必要がある。

(7)ストックの保全と更新

 本格的な少子高齢社会の到来や財政的制約などの公共事業をめぐる環境の変化を見据え、国土の有効な利用、国民のくらしを支える道路の整備を計画的に進めるとともに、戦後本格的に整備が進められてきた道路ストックの多くが今後更新期を迎えることを念頭におき、既存ストックの有効活用を図りながら新しいニーズに対応しつつ、道路の維持管理と更新を進めていくことが必要である。また、その際には、まちづくりの視点を取り入れて進めていくことが不可欠である。

(8)政策の評価と進め方

 国民本位で効率的な質の高い行政を展開していくため、「企画立案→実施→評価→改善(企画立案)」という道路政策のマネジメントサイクルを確立する必要がある。その際、顧客満足度(CS(注6))調査による実現すべき価値の把握や客観的なサービス指標の設定等をマネジメントサイクルに組み込むとともに、政策の意図と実施過程、結果を国民に対して明確に説明していく必要がある。

 また、個別事業についても、既に本格的に運用している新規採択時評価や再評価に続き、現在試行している事後評価を早期に本格運用に移行することにより評価システムの充実を図るとともに、事業の遅延による損失の評価等により時間管理の概念を導入し、用地買収の促進、工期短縮のための制度整備や新技術の活用等と併せて道路事業による効果の早期発現を図る必要がある。
 加えて、事業の計画を策定するプロセスのうちの早い段階から市民の理解を得ていくことにより、事業の効果や効率性、透明性の向上を求める国民の声に答えていく必要がある。



 今後は、これまで検討してきた課題については、更に審議を重ね検討を深めるともに、道路交通政策の在り方、情報通信技術など新技術と道路政策の在り方、道路政策にかかる負担の在り方等に関する残りの課題についても検討を進めるものである。なお、答申は、審議を引き継ぐ社会資本整備審議会の道路分科会において、次期の道路整備に関する計画の策定までに行われる予定である。




(注1)
TDM【Transportation Demand Management】:交通需要マネジメント。フレックスタイム、時差通勤などのピークカット施策や公共交通機関の利用促進、パーク・アンド・ライド等により自動車の利用者の交通行動の変更を促すことにより混雑の緩和を図る施策。
(注2)
マルチモーダル:道路のみならず航空、海運、水運及び鉄道等複数の交通機関の連携により実現する利用者のニーズに応じた効率的な輸送体系。
(注3)
ユニバーサルデザイン:高齢者を含む出来る限りすべての人が、安全かつ快適に利用できるように公共施策や建物、製品などをデザインするという、バリアフリーをさらに進めた考え方。
(注4)
ITS【Intelligent Transport Systems】:高度道路情報システム。最先端の情報通信技術等を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより、ナビゲーションシステムの高度化、有料道路等の自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、道路管理の効率化等を図るもの。安全、快適で効率的な移動に必要な情報を迅速、正確かつわかりやすく利用者に提供するとともに、情報、制御技術の活用により安全運転の支援等を可能とする。
(注5)
ETC【Electronic Toll Corection System】:ノンストップ自動料金収受システム。有料道路の料金収受をノンストップで行うことで料金所渋滞解消、利便性向上、コストの縮減等を図るシステム。
(注6)
CS【Customer Satisfaction】:製品やサービスに対する顧客満足度。

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