最終更新日:2010年4月12日
農家レストラン経営(宮城県加美町)
主な経歴
1947年
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宮城県小野田町生まれ |
1988年
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「小野田ふるさとの味研究会」の発足、会長に就任 |
1996年
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農家レストラン「ふみえはらはん」を開店 |
2001年
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B&Bスタイルの農家民宿「おりざの森」を開業 |
カリスマ名称
「伝統食によるアメニティ創出のカリスマ」
選定理由
農村食文化の女性起業家として、自ら経営する農家レストランにおいて、アイガモ農法による有機米や自家野菜を使用した地域の伝統食を提供するなどスローフードを実践するとともに、農村発の食アメニティを県内外へ積極的に情報発信し、農村女性起業家のモデルとして都市農村交流を通じた地域の活性化に貢献している。
具体的な取り組みの内容
加美町は宮城県の北西部に位置し、東西約32㎞、南北約28㎞の県内では仙台市に次ぐ第2位の面積を有する町である。渋谷さんが生まれ育った町内の旧小野田町地区は、端麗な容姿から「加美富士」と呼ばれる秀峰薬莱山があり、その周辺の豊かな自然を活かし、農業体験の受入や地元食材の提供などを通じた都市農村交流に積極的に取り組み、年間を通じ多くの観光客が訪れる。その観光入込み客数は年々増加し、温泉保養センターなどの整備と相まって、現在約60万人となるなど県内でも有数のグリーン・ツーリズムの町である。

加美富士と呼ばれる薬莱山
農家レストラン「ふみえはらはん」の開業
このような環境のもと、渋谷さんは、平成8年に築170年を超える自宅母屋を改装した農家レストラン「ふみえはらはん」を宮城県内で一番早く開業した。農家レストラン「ふみえはらはん」の名前の由来は,渋谷さんの名前(ふみえ)と地区の古い呼称(はらはん)である。当初、近所の人が集まって遊べるところを作ろうという動機から母屋の改装を行い、コンサートやイベントなどを楽しんでいたが、都市住民の食への関心が高いことを背景に生産現場からの食の提案、地元食材のPRを思いついたことをきっかけとしてレストランへの展開を図ることとした。

農家レストラン「ふみえはらはん」

農家レストラン内部と囲炉裏
農家レストランで提供する料理の食材は、アイガモ農法による有機米や自家野菜、地元で採れる山菜、川魚であり、地元で受け継がれてきた伝統食や独自にアレンジした料理を古い食器を活用し提供している。渋谷さんの抜群の料理センスは、都会から訪れる客の舌と目を堪能させており、平成14年度食アメニティ・コンテストで優良賞を受賞したことにも現れている。

田んぼの雑草を食べるアイガモ
新鮮な食材と素朴な料理、そして調理する渋谷さんに惹かれ、県内はもとより県外からも年間約3,000人の客が訪れるまでになった。農家レストランは完全予約制だが、客が多い日には近所の女性にも協力してもらい、調理を行うなど地域ぐるみの取り組みが実践されているという点でも、渋谷さんが地域に与えた影響は大きい。

渋谷さんの調理風景
更に、渋谷さんは農家レストラン開設を機に、蛍を見る会、柿の花を見る会、雪を愛でる会、月見の会、演奏会など四季折々の農村景観と農村文化を踏まえた様々な催しを開催し、季節の食を中心とした文化交流やグリーン・ツーリズムを展開している。
このように、渋谷さんは単に農家レストランを開業し、地域或いは町の活性化に貢献したことのみならず、県内の女性起業家の先駆者として各種研修会等での講師やフォーラム等のパネラーとなり、自身の実践例を基に啓発・アドバイスを行うなど、後に続く県内外の農家レストラン開業者等へ大きな影響を与えている。

子供たちの田植え作業体験
農家民宿「おりざの森」の開業とインターネットによる情報の発信
平成13年に、「ふみえはらはん」に隣接する敷地内に、渋谷さんのむすめさんが農家民宿B&Bタイプの「おりざの森」を開業し、夕食は農家レストラン「ふみえはらはん」で食事をしてもらうなど渋谷さんと連携を図りながら都市住民との交流を実践している。
また同年、農家レストラン、農家民宿のホームページを立ち上げたこともあって、以前は仙台市近郊の客がほとんどだったが、首都圏はもとより、アメリカやカナダ等の外国からも訪れるようになり、平成14年度には、年間約900人の宿泊者を受け入れ、その顧客層の拡大が図られている。
農産加工クラブ(小野田ふるさとの味研究会)の活動
昭和63年に旧小野田町に農産加工クラブ「小野田ふるさとの味研究会」が発足した。これは、従来、地域ごとに組織されていた農産加工グループを統合したもので、渋谷さんは、会長として、リーダーシップを発揮している。
当クラブでは、転作大豆で作ったみそやりんごをふんだんに使った「焼き肉のたれ」など地元の農産物を活用した商品を開発し、直売施設で販売する他、学校給食等にも活用されている。
その他の取り組み
旧小野田町の農産物直売施設「やくらい土産センター」は地元の農家が集まり「さんちゃん会」(農家の「じいちゃん」、「ばあちゃん」、「かあちゃん」の組織)を組織し施設の運営を行っている。渋谷さんは、この直売施設の設立時役員として加わり、農産物の他おにぎりや餅などの加工品を出荷するなど中心となって会の運営を行ってきた。
本施設は、平成14年度には約15万人の年間利用者、約2億円の売り上げがあり、地域の観光入込み客数の拡大に貢献している。

やくらい土産センター(左)外観(右)内部
また、町外の同じ取り組みを行っている農家などとネットワークをつくり相互の情報交換を行うなど、地域内に留まらない農業・農村の活性化に向けた取り組みを行っている。
他にも、町が推進するグリーン・ツーリズム事業にも積極的に参画し、「小野田町グリーン・ツーリズム推進会議」の一員として、学童農業体験の受入や各種イベント開催などの都市農村交流を積極的に実施している。
平成7年度に47万人だった旧小野田町への観光入込み客数は、平成14年度には約60万人となっており、今後の増大も期待されている。
渋谷さんのこれまでの取り組みがモデルとなり県内の女性をリードした功績は大きく、現在では、宮城県内の女性起業件数は約300件、農家レストランは30件を越える状況となっている。
渋谷さんの先駆的な取り組みは、こうした地域内外の取り組みに影響を与えており、最近では、農家レストランのモデルとして、東北地方の各地から農家レストランの起業を目指す人が視察で訪れるほか、講演依頼も殺到しており、今後、県外への波及効果も大いに期待されている。農業・農村の持つ食資源の有効活用を女性ならではの視点でいち早く実践するなど、今後とも彼女に続く人たちへの模範としての活躍が期待されている。

渋谷さんを囲んで