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大西 雅之(おおにし まさゆき)

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最終更新日:2010年4月12日

株式会社阿寒グランドホテル(あかん遊久の里・鶴雅)代表取締役社長
大西 雅之(おおにし まさゆき)

主な経歴

1955年
北海道釧路市生まれ
1979年
東京大学経済学部経営学科卒業
1979年
三井信託銀行入行 
1989年
(株)阿寒グランドホテル社長就任

カリスマ名称

「無私厚情による人材再生のカリスマ」
何をするにも人柄の良さや無私の精神を持って人々をまとめ上げることに尽力した。

選定理由

全従業員による接客体制づくりなど顧客本位の先進的な旅館経営を実践するとともに、「無私の精神」で阿寒湖温泉の再生に取り組んでいる。また、道東各観光地の連携に奔走し、バス交通やイベント実施の相互調整や情報交換の場を設けるなど、地域の戦略的取組みを主導した。  

具体的な取り組みの内容

鶴雅・58点からの出発-まずは足元から

現在では、道内でも数少ないお客様アンケート(大手エージェント実施)90点以上の宿にランクされる「あかん遊久の里・鶴雅」であるが、大西氏が社長に就任する以前、1987年には60点を切り大手エージェントから見放されるような状況であった。 そんなどん底からはい上がり、1990年代後半には阿寒への観光客を毎年10~25%の大幅増とするまでに阿寒の観光を成長させた要因は、社員全員による経営参画とそれを決断した大西氏の「無私の精神」であった。  

旅館改革運動-チャレンジ80

まず着手したのが料理の改革であった。宿泊料を下げるのではなく、客単価を2000円アップした商品を作り、その2000円を社内利益として残さず、全て料理原価に投入するという大西氏の大胆な発想がお客様の志向を掴み、復活の足がかりを得ていくのである。

団体客から個人客へのシフトが進む中で、部屋出しは大変、かといって宴会場は足りないという状況の中で、パーティでも行列が出来る屋台を導入し、北海道の特産品を料理人による調理の実演付きで提供するというアイディアであった。 その活気ある雰囲気と豊富なメニュー、味の良さは大評判となった。  

旅館の経営 ー社内の自由な情報交換に最新のITを導入と工夫ー

さらにお客様アンケート90点を目指して取り組んだのが、社内LAN「ノーツ」の導入である。これからは社員全員同じレベルでものを知り、共同で考えていくことが大切だと考えた大西氏は、社内の誰もが気付いたこと、お願いしたいこと、こうした方がいいというアイディアを自由に発信し、誰もが見ることの出来る社内情報共有システムを導入した。

なお、鶴雅はわが国の旅館業界ではいち早くISO9002を取得している。 また、旅館内の50箇所に双方向コミュニケーションのカメラを設置し、全従業員が総接客体制で宿泊客のとっさのニーズに迅速に対応し、質の高いサービスを実現している。  

その日の宿泊客からの細かいアンケートの集計結果を即日全体朝礼で報告し、その場で担当者が改善策を迫られるなど、顧客本位のサービスを徹底している。 その他、大西氏は国際観光旅館連盟の常務理事・ISO委員長として900ページにも及ぶ「旅館経営マニュアル」(ISO9001:2000準拠)をまとめ、旅館サービスの質の確保のための具体的提言をまとめている。

そうした地道に足元を固める努力が実り、平成14年の旅行エージェント(JTB加盟旅館)の宿泊アンケートにおいて、200室以上の大旅館としては全国初のサービス最優秀旅館を受賞した。  

北海道東部地域におけるエリア展開と相互連携

「まちづくりには熱心であるが、自分の旅館は閑古鳥がないている」という旅館経営者が少なくない中で、大西氏は自らの旅館経営を盤石なものとするため、鶴雅を旗艦旅館として同じ阿寒湖温泉内で経営に行き詰まった旅館を再生させる、あるいは大手鉄道会社が経営していたサロマ湖のリゾートホテルを引き受けるなど、エリア展開を進めている。  

また、大西氏は、観光ニーズの多様化に対応するため、「自分だけ良ければ良い」という考え方ではなく、道東地域全体として多種多様な観光サービスを提供できるよう、次のような取り組みを行っている。

(1) 事業者や料金が全く異なっていた道東地域のバス交通について、冬期の観光客の利便性を考慮して相互調整を行い、3空港8温泉地を結ぶ「ホワイト・エクスプレス」を立ち上げ、観光客の冬期交通を大きく改善させた。

(2) 道東各観光地の代表者による情報交換の場を設置し、通常であれば内部情報となっている毎月の宿泊客数や客単価などの情報まで情報交換することにより、道東地域全体での観光企画立案を連携して実施している。

(3) 遠方からの旅行客のニーズに応えるため、道東地域の冬のイベントをばらばらに行うのではなく、一定規模以上の大規模イベントを「7大イベント」として選定してパッケージ化し、実施時期についてもある程度重なり合うように地域間で調整することなどにより、北海道東部への周遊観光に対応した戦略を行っている。

(4) 全国の旅行代理店が北海道東部地域へのツアー商品を容易に開発できるよう、「eastHokkaido」というホームページを立ち上げ、地域の著作権フリーの写真・パンフレット・交通情報などをニーズに合わせて細かく提供している。  

阿寒湖温泉活性化への取り組み

全国には「旅館栄えて、温泉街なし」という温泉地があるが、所詮個々の旅館ができることには限界があり、温泉街全体が美しく、快適な空間になっていなければ観光客にとっての魅力は半減する。 阿寒湖温泉も同様にいくら個々の旅館が栄えても、温泉街全体がわが国を代表する湖畔温泉地-レイクサイドリゾートにならなければならない。

そのためには、阿寒湖温泉に住む住民とも一緒になって、全国でも有数の数を誇る土産品店を含む温泉街全体を魅力あるものとしていく必要があると思った大西氏は、活性化に取り組むこととなる。  

人材育成基金の創設 何をするにも「人」が大切。

自ら旅館経営者としての立場からそう感じていた大西氏は、1995年に阿寒観光協会内に人材育成基金を創設し、年間200万円を寄付し続け、土産品、食堂、旅館、民宿など阿寒湖温泉内のあらゆる業種の人々に先進地視察を可能とした。

その結果、住民が先進地といわれる湯布院温泉、長浜温泉、カナダ国立公園(バンフ、ジャスパーなど)、鳴子温泉などに出かけ、研修する事が出来た。  

「阿寒湖温泉まちづくり協議会」の創設

こうした視察を通じてまちづくりに対する意識が住民の間でも醸成され、観光協会内に「まちづくり委員会」が設置された。 その中で大西氏は活性化への取り組みを強調し、東京の観光専門のシンクタンクに相談することとなった。

大西氏はシンクタンクのネットワークも活用し、2000年に阿寒湖温泉活性化検討委員会(山梨大学の花岡委員長をはじめ、航空会社社長、シンクタンク常務、元北海道開発庁、元環境庁出身の大学教授、商業コンサルタントなど8名の外部委員と地元委員で構成)を設置し、2年間かけて「阿寒湖温泉再生プラン 2010」を策定した。その策定過程において、阿寒湖温泉全体のまちづくりを統括する組織-「阿寒湖温泉まちづくり協議会」の必要性が議論され、大西氏は創設に向けて奔走することとなる。  

社会実験「まりも家族手形」の実施

どこの温泉地でも共通して聞かれる「旅館がお客さんを囲い、商店街に出さないようにしている」という指摘が、ここ阿寒湖温泉でも古くから言われていた。

温泉街全体でまちづくりを進めていくためには、そうした不協和音は全体の足を引っ張る。 そこで大西氏は、北海道運輸局と連携し、観光まちづくり支援プログラム策定推進事業によって、「まりも家族手形」という社会実験に取り組むこととした。

この実験は、観光客をあたたかくおもてなしすることを目的に、阿寒湖温泉の宿泊者を対象に、温泉街の土産物店や飲食店約80店で特典を受けられる無料クーポン券(まりも家族手形)と案内パンフレット、利用者アンケートをセットにしたものを配布するものであり、平成14年10月18日から54日間実施した。

温泉手形の類は、野沢温泉や黒川温泉などを例に導入している温泉地が多くなったが、宿泊客を旅館の外に出して、商店街で買い物をしてもらうことに対してインセンティブを付けるといった取り組みがまだまだ少ない。 実現にあたって、阿寒湖温泉内の旅館経営者の説得が一番大変であったという。
まりも家族手形委員会の様子
まりも家族手形委員会の様子

まちづくりは女性パワー!-「まりも倶楽部」の活躍

「阿寒湖温泉再生プラン2010」の策定は、2年間の間で数回に及ぶ住民によるワークショップがベースになっている。その一つに「おもてなしプロジェクト」というチームがあり、大西氏も担当委員として参画した。

そこでの成果の一つは、阿寒湖温泉の住民は全て「自然」と「お客様」を大切にするというアイヌの生活哲学を反映させた「まりも家族憲章」の制定である。

もう一つの成果は、阿寒湖温泉だけではなく、60kmも離れた阿寒本町地区の女性まで巻き込んで構成される「まりも倶楽部」が副産物として立ち上がったことである。

「まりも倶楽部」は、宿泊客に無料で配布される阿寒湖温泉ホワイトマップ・グリーンマップ(四季折々の地元情報満載)の作成、花いっぱい運動の展開、地元の食材を活かしたレシピ集の作成、美味しい店マップなど次々に活躍の場を広げている。  

周囲も協力、さらなるチャレンジへ

現在は、こうした大西氏を中心とする阿寒湖温泉の人々のまちづくりに対する熱い思いが届いたのか、阿寒国立公園を管理する環境省や土地を所有する(財)前田一歩財団も全面的な協力を約束、地元が望む土地利用構想をベースに、住民参加による集団施設地区整備構想の策定が進んでいる。

バブル崩壊以降、疲弊する温泉観光地、特に「大規模な温泉地」が多いなかで、阿寒湖温泉や大西氏のチャレンジは一つの大きな試金石となるであろう。

参考文献

「日経IT21」2002年1月号、「商工ジャーナル」2003年3月号
このページに関するお問い合わせ
大西氏ご勤務先 (株)阿寒グランドホテル (原則ご本人が対応)   
電話 0154-67-2531   FAX 0154-67-2754   
e-mail oonishi@tsuruga.com

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